病院やクリニックの行う医療の質を表す指標(インディケーター)のことです。その医療の質はどのように評価されるかというと、① 構造(ストラクチャー)、② 過程(プロセス)、③ 結果(アウトカム)の3つの側面があります。このなかで、結果(アウトカム)たとえば手術の成功率や癌の5年生存率などがよく情報として拡散されますが、じつは過程(プロセス)の評価が最も重要と考えられています。
以前から医療の透明性ということが言われています。病院やクリニックで実際どのような医療が行われているかは、なかなか外からは分かりにくいものです。現在行われている質の高い医療とは、決して神の手の医療を意味するものではありません。エビデンスに基づいた医療をどれだけ提供できているかによります。しかし、実際は我流の治療であったりエビデンスのない治療が平然と行われています。確かに、エビデンスのない領域もあり、その領域では様々な医療が許容されますが、エビデンスが確立した領域でそれに従わない医療は本来認められるべきではないでしょう。QIはそれぞれの医療機関がどれだけエビデンスに基づいた医療(標準医療)を行えているかの一つの指標です。そして、QIを経年的に公表することで、常に医療の質の向上にむけた取り組みがなされているかが分かるのです。これがプロセスの評価となるのです。
先ほどの医療の質の3つの側面の話は、1966年にAvedis Donabedianという研究者が論文として世に出したものです。臨床の現場でも1990年台以降、「根拠(エビデンス)に基づいた医療(Evidence-based Medcine;EBM)」が質の高い医療と認められるようになりました。その頃より、米国・英国・オーストラリア・ニュージーランドなどで国家レベルでQIを測定し公表しています。2000年台に入ってきてからはフランスやオランダなどでも国家主導でQI関連業務が遂行されています。諸外国に遅れること10年、本邦でも聖路加国際病院が先駆的に開始し、2010年厚労省は『医療の質の評価・公表等推進事業』を始めました。私の前職の湘南藤沢徳洲会病院(旧茅ヶ崎徳洲会総合病院)も当時よりQIの公表を先駆的に行ってきました(病院ホームページでご覧いただけます)。当時QI公表を行った病院は全国で30病院だけでしたが、いまでは300病院以上に増えています。
何か難しいように感じられたかもしれませんが、QIとは“それぞれの医療機関が、どれだけEBMに基づいた医療を提供できているか、そして、どれだけ医療の質の向上に誠実に取り組んでいるか、さらに提供する医療に対する批判を真摯に受け止める気持ちでいるか”がわかる指標です。
喘息の基本治療薬は吸入ステロイドであり、すべての重症度に必須の治療薬です。以前は、気管支拡張薬単独や抗アレルギー薬の内服でコントロールを図ろうとしていた時代がありますが、現在では吸入ステロイドが第1選択薬です。病状によっては、吸入ステロイドと気管支拡張薬の配合剤を初めから処方することもあります。世界的に吸入ステロイドが使用されるようになってから、喘息死の患者数が激減しています。
当院 値の定義・計算方法
分子:喘息患者に吸入ステロイドを処方した人数
分母:年度毎の喘息患者数
参考値の定義
日本における喘息患者実態調査2011
-Asthma Insights Reality in Japan:AIRJ 2011-
● QI.1-1 当院の数値はどうなのか?
全国規模の調査(AIRJ 2011)では、吸入ステロイドの導入率は成人で34%でした。当院の2019年度は93.1%でありかなり上回った結果となりました。これは、呼吸器専門のクリニックであることも大きな要因と思われます。本来、すべての喘息患者に必要な治療であるので、結果は100%であることが理想ですが、高齢な方でどうしても吸入手技の習得が困難であったり、副作用で使用不可能な方は必ずいらっしゃるので、100%は現実的ではありません。しかし、なるべく導入率を増やすべく今後も工夫をしていきたいと思います。
● QI.1-2 前年度と比べどうなのか?
前年度(2018年)と比べやや増加しました。今後もこのレベルを維持できるように取り組んでいきたいと思います。
● QI.1-3 導入率だけでなく継続率の向上も大切
海外のガイドラインでは2019年より軽症喘息の場合、吸入ステロイドの定期吸入よりも吸入ステロイドと長時間作動型β刺激薬の配合剤の必要時吸入療法を治療の第一選択として推奨しています。治療の継続については自己判断ではなく主治医とよく相談することが重要です。
2012年の報告では日本のリスク要因別の死因トップ16のなかで喫煙が第一位であり、喫煙率も2015年の統計では男性30%,女性7.9%とまだまだ高い状態であることを考えると禁煙の重要性が分かります。
現在禁煙補助薬を用いた禁煙治療で約80%の喫煙者で禁煙が成功します。禁煙外来は初回受診から最終受診まで計5回の通院が必要になります。
5回最後まで治療できた場合はその後の禁煙継続率は非常に高いのですが、途中で自己中断となると禁煙継続率は極端に低下します。最後まで治療できたかどうかがその方のその後の禁煙継続率を決定するのです。
当院値の定義・計算方法
分子:禁煙外来受診患者のうち5回の禁煙外来を終了した人数
分母:年度毎の禁煙外来受診患者数
参考値の定義
ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書
中央社会保険医療協議会実施(2016年4月1日~2017年3月31日)
当院値の定義・計算方法
分子:年度毎の総禁煙外来回数
分母:年度毎の禁煙外来受診患者数
参考値の定義
ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査報告書
中央社会保険医療協議会実施(2016年4月1日~2017年3月31日)
● QI 2-1 当院の数値はどうなのか?
全国平均と比べるとかなり高い値でしたが、年々成績は低下傾向にあります。全員が5回の禁煙治療を終了できることが理想です。早い段階で禁煙できるともう大丈夫と安心して自己中断されることが多いため、初回診察の時から毎回、最後まで継続することの重要性をお伝えすることが大切だと思われます。
● QI 2-2 前年度と比べどうなのか?
前年度(2018年)と比べ、5回禁煙外来治療の終了率がかなり低下してしまいました。その原因を検討し禁煙成功率の向上を目指します。